2026年8月30日時点の情報です。
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シンガポールが、金をめぐる大きな制度変更に動きました。
シンガポール金融管理局(MAS)は、一定の投資ファンドやファミリーオフィスを対象に、現物の投資用貴金属に設けていた5%の上限を撤廃しました。
新しいルールは、2026年8月1日からすでに施行されています。
しかし、ここで注意したいことがあります。
今回なくなったのは、
「個人が金を5%以上持ってはいけない」
という規制ではありません。
正確には、一定のファンドが税制優遇を受けるために使われる「指定投資資産」の中で、現物の投資用貴金属を5%までしか組み入れられなかった制限が撤廃されたという話です。MASは2026年7月31日付のCircular FDD Cir 05/2026で変更を示し、8月1日から適用しました。
つまり、直接恩恵を受ける中心は富裕層のファミリーオフィスや投資ファンドです。
一方で、この変更は個人投資家にも無関係ではありません。
なぜなら、シンガポールは今回の制度変更だけではなく、
金の保管、売買、清算、先物、トークン化まで含めた巨大な金市場を作ろうとしているからです。
この記事では、5%撤廃の仕組みから、具体的な計算例、シンガポールの狙い、日本の個人投資家が注意すべきポイントまで順番に見ていきます。
- 結論|5%撤廃は「金を金融インフラに組み込む政策」の一部
- そもそも何の「5%」だったのか
- これまで現物金は「指定投資資産の5%まで」だった
- 計算例①|旧制度では1億Sドルなら約500万Sドルが目安
- 計算例②|金価格が20%上がるとどうなる?
- 計算例③|現物金を20%持つ戦略も取りやすくなる
- すべての「貴金属」が対象になるわけではない
- 5%撤廃だけを見ると政策の本質を見失う
- 「現物金」と「デジタル金融」がつながり始めている
- なぜシンガポールはここまで金に力を入れるのか
- 個人投資家にはどんな影響がある?
- 個人投資家が特に注意したい点
- 日本に住む個人は日本の税金を確認する必要がある
- メリットとデメリットを整理
- 香港との金市場争いにも注目
- 今後チェックしたい5つのポイント
- やってはいけない判断
- 個人投資家向けチェックリスト
- FAQ
- 一次情報・確認資料
- この金融動向から見て取れること
結論|5%撤廃は「金を金融インフラに組み込む政策」の一部
今回の変更だけを見ると、
「富裕層が金をたくさん持てるようになった」
というニュースに見えます。
しかし、実際にはもう少し大きな話です。
シンガポール政府とMASは、アジアで増えている金需要を取り込むため、
世界的な金取引・保管拠点をシンガポールにつくろうとしています。
そのため、
| 施策 | 状況 |
|---|---|
| 現物投資用貴金属の5%上限 | 2026年8月1日に撤廃 |
| 中央銀行向け金保管サービス | 2026年10月開始予定 |
| SGXのOTC金清算システム | 2026年末までに開始予定 |
| 銀行間取引の本格化 | 2027年以降を想定 |
| 現物受渡し型の金先物 | SGXが検討中 |
| トークン化された金 | 銀行などが開発を進める |
という複数の政策が同時に進んでいます。
つまり、5%撤廃は単独の政策ではありません。
「シンガポールに現物金を集め、その金を取引できる市場まで作る」
という政策の一部分です。
そもそも何の「5%」だったのか
まず、ここを間違えるとニュース全体を誤解します。
今回撤廃された5%は、一般の個人投資家に対する金の保有限度ではありません。
対象となるのは、シンガポール所得税法のファンド向け税制優遇制度です。
代表的なものには、
- Section 13O
- Section 13OA
- Section 13U
などがあります。
13Oや13Uは、一定の条件を満たした投資ファンドについて、指定された投資から得られる一定の所得をシンガポールの所得税から免除する仕組みです。
ファミリーオフィスにも広く利用されています。
そのため、富裕層が資産管理拠点としてシンガポールを選ぶ理由の一つになっています。
これまで現物金は「指定投資資産の5%まで」だった
税制優遇制度では、何に投資しても同じように免税になるわけではありません。
対象になる「Designated Investments(DI)」、つまり指定投資資産があります。
現物の投資用貴金属もDIに含まれていました。
しかし、以前は条件がありました。
現物の投資用貴金属について、
投資ポートフォリオの5%を超えてはいけない
という制限です。
より正確には、旧ルールでは次のような計算方法が使われていました。
A ≦ B × 5%
A:対象期間における現物投資用貴金属の月末評価額の平均
B:対象期間最終日の投資ポートフォリオ全体の評価額
という仕組みです。
単純に「ある瞬間に5%を超えたら即アウト」という仕組みではない点には注意が必要です。
計算例①|旧制度では1億Sドルなら約500万Sドルが目安
わかりやすく単純化して考えてみます。
ファンド全体の資産が、
1億Sドル
だったとします。
5%は、
1億Sドル × 5%
= 500万Sドル
です。
つまり、旧制度では現物の投資用貴金属について、約500万Sドルが一つの基準になります。
たとえば平均月末評価額が400万Sドルなら、
400万 ÷ 1億
= 4%
なので5%以内です。
一方で600万Sドルなら、
600万 ÷ 1億
= 6%
になります。
この場合、旧制度では現物投資用貴金属をDIとして扱うための5%条件を超えることになります。
そのため、ファンド側は税制優遇を維持するために、金を減らしたり、ポートフォリオを調整したりする必要が出る可能性がありました。
金価格が上がっただけでも5%を超える問題があった
さらに厄介なのは、自分から金を買い増していなくても、金価格が上昇すると比率が上がることです。
The Business Timesによると、2026年1月に金価格が1トロイオンス約5,500ドルの最高値圏まで上昇した際、一部のファミリーオフィスやファンドマネージャーは税制優遇を維持するために保有量を減らしました。
ここに旧制度の問題がありました。
計算例②|金価格が20%上がるとどうなる?
簡単な例で考えてみます。
最初のポートフォリオが、
| 資産 | 金額 |
|---|---|
| 現物金 | 500万Sドル |
| その他の資産 | 9,500万Sドル |
| 合計 | 1億Sドル |
だったとします。
現物金はちょうど5%です。
ここで他の資産価格は変わらず、金価格だけが20%上昇したとします。
500万Sドル × 1.2
= 600万Sドル
になります。
すると、
600万 ÷ 1億100万
≒ 5.94%
です。
単純な時価比率で見ると、5%を超えてしまいます。
旧制度の実際の判定では月末平均評価額などを使うため、この瞬間に違反するわけではありません。
しかし、この状態が続けば5%条件への対応が必要になる可能性が高くなります。
つまり、
金が値上がりしたために、金を売らなければならない
という、投資戦略としては不自然な状況が起きる可能性がありました。
5%に戻すにはどれくらい売る必要がある?
先ほどの単純化した例を使います。
金600万Sドル、その他9,500万Sドル。
合計1億100万Sドルです。
ここから金を100万Sドル売ったとします。
すると、
現物金:500万Sドル
ポートフォリオ全体:1億Sドル
となります。
500万 ÷ 1億
= 5%
です。
つまり、価格上昇によって金が増えただけなのに、約100万Sドル分を売却する必要が出るイメージです。
これが5%上限撤廃の実務上の大きな意味です。
2026年8月1日から5%という壁がなくなった
MASは2026年6月15日のAsia-Pacific Precious Metals Conferenceで、5%上限を撤廃する方針を発表しました。
その後、7月31日にCircular FDD Cir 05/2026が公表され、8月1日から撤廃が正式に適用されました。
そのため現在は、
「現物の投資用貴金属は5%以内」
というDI上の制限がありません。
計算例③|現物金を20%持つ戦略も取りやすくなる
たとえば1億Sドルのファンドが、
2,000万Sドルを現物金
8,000万Sドルをその他の資産
にするとします。
金の比率は、
2,000万 ÷ 1億
= 20%
です。
以前なら5%上限が問題になります。
しかし現在は、この5%制限自体がなくなったため、現物金への大きな資産配分を組み込みやすくなりました。
ただし、
「金なら何%持っても無条件で全部免税」
という意味ではありません。
13Oや13Uなどの制度には、運用資産額、投資専門家、シンガポール国内での支出など、別の条件があります。
さらにMASは、実体のない仕組みを作って税金を逃れるだけのファンドについて、税制優遇を認めなかったり、取り消したりできるとしています。
すべての「貴金属」が対象になるわけではない
Investment Precious Metals、略してIPMとは、投資向けの一定の基準を満たす貴金属です。
シンガポールのIRASでは、代表的に、
| 金属 | 純度の基準 |
|---|---|
| 金 | 99.5%以上 |
| 銀 | 99.9%以上 |
| プラチナ | 99%以上 |
などの条件があります。
さらに、国際的な貴金属市場で取引可能であることなども求められます。
そのため、
金のネックレス
装飾用の金製品
希少性そのものに価格が付いているコレクターコイン
などを買えば同じ扱いになるわけではありません。
5%撤廃だけを見ると政策の本質を見失う
今回のニュースで本当に重要なのはここです。
シンガポールは単に、
「ファミリーオフィスがもっと金を買えるようにしよう」
と考えているわけではありません。
目的は、
世界の金市場におけるシンガポールの地位を高めること
です。
2026年6月15日、MAS会長でもあるGan Kim Yong副首相は、世界の金市場について重要な問題を指摘しました。
世界の消費者向け金需要の約70%はアジアにあります。
しかし、金の取引、流動性、価格形成の中心は、依然としてロンドンやニューヨークです。
つまり、
買う人はアジアに多いのに、市場インフラは欧米側に集中している
という状況があります。
シンガポールは、このギャップを狙っています。
シンガポールはロンドンを倒そうとしているわけではない
シンガポール政府自身も、
ロンドンやニューヨークなど既存の金市場を置き換えることが目的ではない
と説明しています。
狙っているのは、
アジア時間帯の金取引を支える新しい拠点
です。
つまり、
ロンドン
ニューヨーク
シンガポール
という形で、世界中の時間帯をつなぐ金市場を作ろうとしているわけです。
①SGXが「Loco Singapore」を作る
まず大きいのがSGX、つまりシンガポール取引所の動きです。
SGXは2026年末までに、
Loco Singapore向けOTC金清算システム
を構築する予定です。
「Loco」とは、貴金属がどこに保管され、どこで受け渡されるかを示す言葉です。
たとえば世界で有名なのが、
Loco London
です。
これに対して、
Loco Singapore
は、シンガポールで保管・決済される現物金市場を意味します。
6つの大手銀行が参加する
Loco Singaporeの清算システムには、
- DBS
- Deutsche Bank
- ICBC Standard Bank
- J.P. Morgan
- OCBC
- UOB
の6行が参加する予定です。
そして銀行間取引は、2027年以降に本格化していく計画です。
これはかなり重要です。
市場参加者が増えれば、
取引量が増える
↓
売買しやすくなる
↓
価格差が縮まりやすくなる
↓
さらに参加者が増える
という流れが期待できます。
②MAS自身が中央銀行の金を預かる
さらにMASは、2026年10月から外国中央銀行などを対象とした金保管サービスを開始する予定です。
これは普通の貸金庫とは意味が違います。
中央銀行が保有する金は、
国家の外貨準備
金融危機への備え
通貨への信用
などにも関係する重要な資産です。
その金をMASが預かるということは、
シンガポールを国家レベルの金保管拠点にする
という意味があります。
すでに2,000トン以上の民間保管能力がある
シンガポールには、すでに民間企業による大規模な金庫があります。
Gan Kim Yong副首相によると、主要な金庫事業者を合わせると、
2,000トンを超える安全な保管能力
があります。
利用者には、
中央銀行
貴金属銀行
機関投資家
富裕層
などが想定されています。
つまり、シンガポールはこれから金庫を一から作るのではありません。
すでにある大規模な保管インフラを、金融市場とつなげようとしています。
③現物受渡しができる金先物も検討
SGXは、
Physical Deliverable Gold Futures
つまり現物受渡し型の金先物も検討しています。
これが実現すれば、
価格変動をヘッジする
将来の金価格を取引する
価格形成をシンガポール市場で行う
といったことがしやすくなります。
単に金を保管する場所から、
価格まで作られる市場
へ進む可能性があります。
④トークン化された金も進める
もう一つ注目したいのが、トークン化された金です。
これは簡単に言えば、
実物の金の所有権などをデジタル上のトークンとして扱う仕組み
です。
MASは、指定投資資産そのものだけではなく、その資産と同じ権利や義務を持つ一定のトークン化された持分についてもDIとして扱えることを明確にしました。
さらに銀行なども金のトークン化を進めています。
つまり将来的には、
現物金
↓
銀行保管
↓
トークン化
↓
デジタル上で売買
という市場が拡大する可能性があります。
「現物金」と「デジタル金融」がつながり始めている
ここは今回の政策を見るうえで重要なポイントです。
シンガポールが作ろうとしているのは、単なる金市場ではありません。
現物保管
↓
OTC取引
↓
清算
↓
先物
↓
トークン化
という一連の金融インフラです。
つまり、物理的な金をデジタル金融市場までつなげる仕組みが作られ始めています。
なぜシンガポールはここまで金に力を入れるのか
背景には、世界的な不確実性があります。
地政学リスク
通貨への不安
インフレ
国家間対立
金融制裁
などが増えると、中央銀行や富裕層は資産を一つの通貨や国だけに集中させたくありません。
そのため、金は再び重要な準備資産になっています。
World Gold Councilの2026年調査でも、中央銀行は金を安全性、流動性、分散のための重要な準備資産として評価しており、保管場所そのものを分散しようとする動きも確認されています。
この需要をシンガポールが取り込もうとしているわけです。
シンガポール自身も金を保有している
World Gold Councilによると、MASは2026年にも金を買い増しており、シンガポールの金保有量は約197トンとされています。
つまり、
「他国の金を預かる」
だけではありません。
シンガポール自身にとっても、金は重要な準備資産です。
すでにシンガポール保管型の金ファンドに資金が入っている
需要の兆候はすでにあります。
2025年11月に開始されたLionGlobal Singapore Physical Gold Fundは、シンガポール国内に保管される現物金に投資する商品です。
2026年6月時点で、運用資産額はすでに6億Sドルを超えたとシンガポール政府が説明しています。
つまり、
「シンガポールで金を持ちたい」
という投資需要は、すでに数字として表れ始めています。
では5%撤廃で巨大な「ゴールドラッシュ」が起きるのか?
ここは冷静に見る必要があります。
The Business Timesも記事タイトルで、
「上限撤廃を歓迎するが、ゴールドラッシュは予想していない」
としています。
5%という制限がなくなったからといって、すべてのファミリーオフィスが資産の30%や50%を金にするわけではありません。
株式
債券
不動産
プライベートエクイティ
現金
金
などを分散して保有するのが一般的だからです。
したがって、
5%撤廃=突然、大量の金買いが始まる
と考えるのは少し飛躍があります。
それでも中長期では需要基盤を強くする可能性がある
一方で、制度変更の意味が小さいわけではありません。
以前は、
「金を増やしたいけれど税制優遇上5%が邪魔になる」
という投資家がいました。
今後はその制約がありません。
さらに、
保管
清算
先物
銀行サービス
トークン化
まで整えば、シンガポールで金を保有する理由が増えます。
つまり、一気に大量購入が起きるというより、
時間をかけて機関投資家の現物金需要を増やすための土台が作られた
と考える方が自然です。
個人投資家にはどんな影響がある?
ここからが日本の個人投資家にとって重要です。
最初に結論を書くと、
今回の5%撤廃によって、日本の個人投資家の税金が直接安くなるわけではありません。
直接対象となるのは、シンガポールの税制優遇制度を利用する適格ファンドなどです。
ただし、間接的な影響はいくつかあります。
影響① 金への機関投資家需要が増える可能性
まず考えられるのが需要です。
ファミリーオフィスや機関投資家が、これまでより自由に現物金へ資産を配分できるようになります。
そのため中長期では、
金市場の需要を支える一つの要因
になる可能性があります。
ただし金価格は、
米国金利
ドル
中央銀行の購入
ETFへの資金流入
地政学リスク
鉱山生産量
など、多くの要因で動きます。
したがって、
「MASが5%撤廃したから金価格は必ず上がる」
という考え方は危険です。
影響② アジア時間帯の金取引が便利になる可能性
Loco Singaporeが発展すると、アジア時間帯でも金を売買しやすくなる可能性があります。
流動性が増えれば、
売値と買値の差
取引コスト
決済時間
などの改善につながる可能性があります。
特に銀行や機関投資家には大きなメリットがあります。
影響③ 新しい金投資商品が増える可能性
SGXの金先物やトークン化された金など、新しい金融商品が増える可能性があります。
その結果、将来的には個人投資家にもアクセスできる商品が増えてくるかもしれません。
ただし、
現物金
ETF
先物
トークン化金
ではリスクがまったく違います。
「金に連動しているから全部同じ」と考えてはいけません。
個人投資家が特に注意したい点
「5%撤廃=個人投資家の減税」ではない
今回最も誤解されやすいポイントです。
5%は、個人の資産配分に対する規制ではありません。
そのため、日本に住んでいる個人が、
資産の10%
20%
30%
を金にしたからといって、MASの5%ルールとは関係ありません。
シンガポールでは投資用貴金属がGST免税
一方で、シンガポールには個人投資家にも関係する別の制度があります。
一定のInvestment Precious Metalsについては、
輸入およびシンガポール国内での販売にGSTがかかりません。
シンガポールの通常GSTは9%です。
計算例④|10万Sドルの金ならGST9,000Sドル相当
仮に通常の商品を10万Sドル購入し、9%のGSTがかかる場合、
10万 × 9%
= 9,000Sドル
です。
しかし、条件を満たす投資用貴金属はGST免税です。
そのため購入時の税コストを抑えられます。
ただし、これは今回新しく始まった制度ではありません。
今回の5%撤廃とは別の制度です。
この2つを混同しないことが重要です。
日本に住む個人は日本の税金を確認する必要がある
もう一つ非常に重要なのが税務です。
仮にシンガポールで金を買ったとしても、
日本の税務上の扱いまでシンガポールになるわけではありません。
日本居住者の場合、日本の税制を確認する必要があります。
国税庁によると、個人が金地金を売った利益は、原則として総合課税の譲渡所得になります。
計算例⑤|300万円で買った金を420万円で売った場合
たとえば、
購入価格:300万円
売却価格:420万円
売却費用など:10万円
だったとします。
利益は、
420万円
-300万円
-10万円
= 110万円
です。
ほかに総合課税の譲渡所得がないと仮定すると、譲渡所得には年間最高50万円の特別控除があります。
110万円-50万円
= 60万円
です。
保有5年以内なら60万円が所得に加わる
保有期間が5年以内の場合、
60万円
が短期譲渡所得として、給与など他の所得と合わせて課税されます。
そのため税率は、本人の所得によって変わります。
5年を超えると課税対象は半分になる
同じ条件で5年を超えて保有していた場合、
60万円 × 1/2
= 30万円
です。
総所得金額に算入される金額は30万円になります。
つまり日本では、現物金について保有期間5年が税務上かなり重要です。
※実際の税額は他の所得、取得費、取引方法などによって変わります。具体的な判断は国税庁や税理士などに確認してください。
金投資口座は現物金と税金が違う
さらに注意したいのがここです。
日本では金投資口座などの利益については、現物金の譲渡とは扱いが異なる場合があります。
国税庁によると、一定の金投資口座などの利益は金融類似商品として、
20.315%の源泉分離課税
となります。
つまり、
現物金
純金積立
金投資口座
ETF
先物
などは、税金の仕組みを同じだと思わない方が安全です。
メリットとデメリットを整理
| 視点 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| ファンド | 金への配分自由度が上がる | 他の13O・13U条件は残る |
| ファミリーオフィス | 金価格上昇による5%超過を気にしにくい | 金そのものの価格変動リスクは残る |
| シンガポール | 金、資産管理、銀行、保管ビジネスが集まりやすい | 世界的な金市場との競争がある |
| 機関投資家 | アジア時間帯で取引しやすくなる可能性 | 市場の流動性形成には時間が必要 |
| 個人投資家 | 商品や取引手段が増える可能性 | 5%撤廃による直接減税ではない |
| 金価格 | 長期的な需要基盤になる可能性 | 上昇を保証する政策ではない |
香港との金市場争いにも注目
シンガポールだけがアジアの金市場を狙っているわけではありません。
香港も金市場や保管能力、取引インフラを強化しています。
そのため今後は、
ロンドン
ニューヨーク
香港
シンガポール
などを中心に、世界の金をどこで保管し、どこで売買し、どこで価格形成するかという競争が強くなる可能性があります。Reutersも、シンガポールの政策を香港などとの地域競争の流れの中で報じています。
個人投資家にとって重要なのは、
金価格そのものだけでなく、金を扱う金融インフラがどこに集まり始めているかを見ること
です。
今後チェックしたい5つのポイント
2026年10月のMAS金保管サービス
予定どおり外国中央銀行が利用し始めるのか。
そして、どれくらいの金がシンガポールへ移動するのかが重要です。
SGXのOTC金清算
2026年末までの開始が予定されています。
実際の取引量がどれくらい増えるかを見る必要があります。
2027年以降の銀行間取引
市場が本当に大きくなるかは、銀行間取引の流動性が重要になります。
金先物とトークン化金
SGXの現物受渡し型先物や銀行のトークン化金がどこまで普及するかにも注目です。
ファミリーオフィスの実際の資産配分
制度が変わっても、金への配分が5%から6%になるだけなのか、それとも10%、20%と増えていくのかで、市場への影響は大きく変わります。
やってはいけない判断
今回のニュースだけを見て、
「シンガポールが規制を撤廃したから金は絶対に上がる」
と考えるのは危険です。
また、
「5%以上金を持てるようになった」
という説明だけを見るのも正確ではありません。
今回なくなったのは、ファンド税制の指定投資資産として扱われる現物投資用貴金属の5%条件です。
さらに、宝石やアクセサリーまで同じIPM扱いになるわけではありません。
そして、日本居住者であれば日本の税金も別に確認する必要があります。
個人投資家向けチェックリスト
金投資を考える場合は、最低でも次の点を確認しておきましょう。
- 現物金なのかETFなのか
- どこに保管されるのか
- 実物の金と交換できるのか
- 保管手数料はいくらか
- 売値と買値の差はいくらか
- 為替リスクはあるか
- 発行会社や保管会社は誰か
- 日本ではどの所得区分になるか
- 5年以上保有する予定なのか
- 「金価格が上がる」という前提だけで買っていないか
FAQ
MASの5%撤廃で個人も金を無制限に買えるようになった?
今回の5%は個人の購入制限ではありません。
一定のファンド税制で現物投資用貴金属を指定投資資産として扱うための5%上限です。
金価格にはプラス?
機関投資家やファミリーオフィスが現物金へ投資しやすくなるため、中長期的には需要を支える材料になる可能性があります。
しかし金価格は金利、ドル、中央銀行需要、地政学など多くの要因で動くため、価格上昇が保証されるわけではありません。
シンガポールで金を買えば税金がかからない?
シンガポールでは一定の投資用貴金属についてGSTが免除されています。
しかし、日本居住者が売却して利益を得た場合などは、日本の税務上の扱いも確認する必要があります。
5%撤廃の対象は金だけ?
「Investment Precious Metals」が対象なので、金だけではありません。
一定の基準を満たす銀やプラチナなども含まれます。
一番重要なポイントは何?
5%撤廃そのものより、
シンガポールが金の保管・取引・清算・先物・トークン化を一つの金融インフラとして構築していること
です。
ここまで見ることで、今回の政策の本当の意味がわかります。
一次情報・確認資料
今回の制度を確認する場合は、まずMAS、シンガポール政府、IRASなどの情報を見るのが確実です。
MAS Annual Report 2025/2026 Media Conference
MASは、現物の投資用貴金属に設けられていた5%上限について、2026年8月1日から撤廃すると正式に説明しています。
MAS「Annual Report 2025/2026 Media Conference」
Gan Kim Yong副首相によるAsia-Pacific Precious Metals Conferenceでの発表
Loco Singapore、中央銀行向け金庫、金先物、5%上限撤廃など、シンガポールの金市場戦略全体を確認できます。Gan Kim Yong副首相「9th Asia-Pacific Precious Metals Conference」スピーチ全文
IRAS Investment Precious Metals
シンガポールで投資用貴金属として認められる条件やGST免税について確認できます。 IRAS Investment Precious Metalsの説明
国税庁「金地金の譲渡による所得」
日本の個人が現物金を売却した場合の課税方法を確認できます。 国税庁「金地金の譲渡による所得」
この金融動向から見て取れること
今回の5%上限撤廃は、単なる「富裕層向けの規制緩和」ではありません。
以前は、一定のファンドが現物の投資用貴金属を指定投資資産として扱う場合、5%という制限がありました。
そのため金価格が上昇しただけでも、税制優遇を意識して金を売却する必要が出る可能性がありました。
しかし2026年8月1日から、この5%条件は撤廃されています。
そして同時にシンガポールは、
金を保管する
↓
銀行が取引する
↓
SGXで清算する
↓
先物を作る
↓
トークン化する
という市場を作ろうとしています。
だから今回のニュースで見るべきなのは、
「金を何%持てるか」だけではありません。
より重要なのは、
世界の金市場のインフラと資金が、アジアへどこまで移ってくるのか
という点です。
個人投資家に直接5%撤廃の税制メリットがあるわけではありません。
しかし、今後シンガポールがアジアの主要な金取引拠点として成長すれば、金の流動性、金融商品、保管サービス、価格形成にも影響が広がる可能性があります。
そのため、金そのものの価格だけでなく、金を扱う金融インフラの変化まで追うことが、これからの金市場を見るうえで重要になります。
※本記事は制度や市場動向を解説するものであり、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。税務や投資判断は個人の状況によって異なるため、必要に応じて税理士などの専門家や公的機関の情報を確認してください。

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